生産ラインの作業者には休憩所やスポットクーラーが用意されていても、機械を守る保全担当は、冷房のない機械室や屋上、設備の上で一人きりの作業になりがちです。しかも定期修理や一斉給脂は、生産が止まる真夏の休業中に集中します。
この記事では、厚生労働省の「職場における熱中症防止のためのガイドライン」が示す作業のきつさ別のWBGT基準値を手がかりに、設備保全ならではの熱中症リスクと、その減らし方を整理しました。特に、手と腕を酷使するグリースの給脂作業を例に、道具と段取りで負担を下げる方法を具体的に紹介します。
こんな方に向けて書いています
- ・工場やビル、プラントの設備保全・メンテナンスを担当している
- ・夏季休業中の定期修理や一斉給脂の計画を立てる立場にある
- ・保全部門の熱中症対策として、2025年施行の義務化にどう対応するか考えたい
この記事の結論
- 1保全作業は「単独」「冷房なし・熱源のそば」「昇り降りと重い荷物」「休業中の集中作業」が重なり、熱中症の条件がそろいやすい。
- 2国のガイドラインでは、作業が重いほどWBGT基準値が下がる。手動の給脂(28℃)より軽い作業(30℃)に変えれば、同じ暑さでも余裕が生まれる。
- 3道具で作業を軽くする。動力式のグリースガン、缶に直付けするポンプ、運搬用のキャリー、配管で送る集中給脂が有効。
- 4単独作業は短く区切り、行き先と戻り時刻の共有、定期連絡、巡視で「見つかる」状態を保つ。
- 5休み明けは暑さへの慣れが失われている。作業時間を短く組み、倒れた人は一人にせず冷やしながら担当者へ連絡する。
1設備保全で熱中症の条件がそろう4つの理由
国のガイドラインは、熱中症リスクの要因として、高温・多湿な環境、連続作業、通気性の低い服や保護具、体への負荷が大きい作業を挙げています。保全作業は、このほとんどに当てはまりやすい仕事です。
1一人で回る
点検や給脂は一人で受け持つことが多く、倒れても見つかるまで時間がかかります。
2冷房のない場所・熱源のそば
機械室、屋上、炉やボイラーの近く。地域のWBGT予報より実際の値が高くなりやすい場所です。
3昇り降りと重い荷物
クレーンや設備の上部へ階段で上がり、16〜20kgのペール缶を運ぶこともあります。
4休みの間にまとめて作業
生産を止める夏季休業中に定期修理や一斉給脂が集中。冷房が止まり、休み明けで体も暑さに慣れていません。
ガイドラインは、直射日光の下や炉などの熱源の近く、冷房がなく風通しの悪い屋内では、地域の参考値ではなくWBGTを実測する必要があるとしています。参考値は実測より低めに出ることがあるため、機械室や屋上の作業前には、その場所でJIS規格に合ったWBGT指数計を使って確かめるのが基本です。
保全では、油や粉じんから身を守る保護具を着ける場面も少なくありません。ガイドラインは、通気性や透湿性の低い服、呼吸用保護具も体に熱がこもる要因に挙げ、着る服によってはWBGTに補正値を足して評価するよう示しています。保護具を外せない作業ほど、休憩の間隔を短めに見積もってください。
2作業のきつさでWBGT基準値が変わる:保全作業に当てはめる
国のガイドラインは、体の動かし方の強さ(身体作業強度)と暑さへの慣れに応じて、WBGT基準値を5段階に分けています。作業が重いほど基準値は低くなり、同じ暑さでも早めに休憩や中止を判断する必要があります。
| 区分 | 作業の例 | 暑熱順化者 | 非順化者 |
|---|---|---|---|
| 0 安静 | 安静、楽な座位 | 33℃ | 32℃ |
| 1 低代謝率 | 軽い手作業、点検、小さい力で駆動する機械の操作など | 30℃ | 29℃ |
| 2 中程度代謝率 | 継続的な手及び腕の作業、中くらいの重さの材料を断続的に持つ作業など | 28℃ | 26℃ |
| 3 高代謝率 | 強度の腕及び胴体の作業、重量物の運搬、ショベル作業など | 26℃ | 23℃ |
| 4 極高代謝率 | とても激しい活動、階段を昇る、など | 25℃ | 20℃ |
出典:厚生労働省「職場における熱中症防止のためのガイドライン」表1-1(JIS Z 8504をもとに作成されたもの)。作業の例は一部を抜粋。
保全作業を当てはめると、道具で区分を下げられる
保全の作業をこの区分に当てはめたのが次の表です(区分の当てはめは、ガイドラインの例示をもとにした編集部の目安)。作業を1段軽くするごとに、基準値は1〜3℃上がる計算になり、休憩や中止の判断に余裕が生まれます。
| 保全作業 | 近い区分 | 軽くする方法 | 道具の例 |
|---|---|---|---|
| 階段で設備の上部へ上がって給脂 | 4 極高代謝率 | 地上から配管で送る集中給脂に | |
| ペール缶(16〜20kg)を抱えて運ぶ | 3 高代謝率 | キャリーで転がす/缶に直接ポンプを付ける | |
| 手動ガンのレバーを握り続けて給脂 | 2 中程度代謝率 | エア式・電動式に替える | |
| 動力式ガンでの給脂、点検 | 1 低代謝率 | —(この水準を目指す) | — |
基準値を超えたときの休憩の目安
ガイドラインは、暑さに慣れた作業者がWBGT基準値を超える環境で作業する場合の休憩時間の目安も示しています。慣れていない人は、さらに長めの休憩が望ましいという位置づけ。
1℃程度超過
1時間に15分以上
2℃程度超過
1時間に30分以上
3℃程度超過
1時間に45分以上
それ以上
作業中止が望ましい
冷却機能のある服を着ていないなど、特段の対策をしていない場合の目安(同ガイドライン表1-1注3)。
たとえば、暑さに慣れた担当者が手動ガンで給脂する場面(基準値28℃)で、機械室のWBGTが30℃だったとします。基準値を2℃超えるので、1時間に30分以上の休憩が目安です。同じ環境でも、動力式のガンで低代謝率の作業(基準値30℃)にできれば、基準値を超えない計算です。
3給脂作業を軽くする道具:レバー作業をなくす
ガイドラインは作業管理の一つとして、身体作業強度の高い作業を避けるよう求めています。保全作業のなかで手と腕を最も酷使しやすいのが、手動グリースガンでの給脂です。どれだけレバーを握っているのか、数字にしてみましょう。
- 必要なグリース量
- 5mL × 100か所 = 500mL
- 手動ガン(1回1.0mL)
- レバー操作 約500回
- エア式 AMG-400N(毎分310mL)
- 吐出の時間だけなら 約1分半
- 電動式 EG-400AⅡ(毎分72g)
- スイッチ操作のみ。レバー操作は不要
1か所5mLは計算のための仮の値です。吐出能力はヤマダのカタログ値で、移動やノズルの着脱にかかる時間は含みません。
手動でレバーを500回握る作業は、ガイドラインの区分でいえば「継続的な手及び腕の作業」に近いもの。動力式に替えれば、作業者がすることはノズルを当ててスイッチやトリガーを操作するだけになります。暑い機械室にいる時間そのものも短くなるため、二重の意味で負担が下がります。
楽天市場エアのある工場で、レバー作業をなくす
ヤマダ オートグリースマシンガン AMG-400N28MPa/310mL/分/2.1kg
エアの力で連続吐出するため、レバーを握り続ける作業がなくなる。腕と手首の負担を大きく減らせる。
現場のコツグリースが出ない不調は、涼しい場所で直してから
給脂の途中でグリースが出なくなると、原因を探しながら暑い場所にとどまりがちです。エア噛みやノズル詰まりの確認は、いったん涼しい場所に移ってから行いましょう。予備のガンを1本持って回ると、その場で粘らずに済みます。
4ペール缶を「運ばない・担がない」段取り
グリースのペール缶は16〜20kg。抱えて階段を上がったり、構内を何度も往復したりするのは、ガイドラインでいう「重量物の運搬」にあたる重い作業です。ガイドラインは、重量物を扱う作業では台車やリフターを使う、複数人で作業するなどして1人あたりの負荷を下げるよう示しています。
| 方法 | 減らせる負担 | 道具の例 |
|---|---|---|
| 缶に直接ポンプを付ける | ガンへの詰め替えと、缶の持ち上げ | |
| キャリーに載せて転がす | 缶とポンプの持ち運び | |
| 小分けして持って行く | 重い缶を抱えての昇り降り | |
| 詰め替えは涼しい場所でまとめて | 暑い現場での詰め替え作業 |
5高所へ行く回数を減らす:集中給脂という選択肢
階段を昇る動作は、ガイドラインの区分で最も重い「極高代謝率」の例に挙げられています。クレーンやコンベヤ、屋上の空調機のように給脂点が高い場所に散らばる設備では、そこへ上がるたびに大きな負担がかかる構造です。
集中給脂は、地上の手の届く1か所に置いたポンプから、配管を通じて複数の給脂点へグリースを送る方式です。広和(KWK)のKMPシリーズは、販売店のページで「集中給脂を低コストで実現」「小規模で給脂頻度の少ない場所向け」と紹介されている手動ポンプ。適用例として挙がっているのは、クレーン・工作機械・コンベヤ・空調機のファンといった一般産業機械です。導入には配管の工事や既存設備との適合確認が必要なので、設備メーカーや施工会社と相談しながら進めてください。
6単独作業の見守りと、暑い場所にいる時間の短縮
ガイドラインは、作業中の巡視を頻繁に行って声をかけること、長時間の単独作業を避けてなるべく短時間にすることを求めています。単独作業が避けられない場合は、ウェアラブル機器などによる状態の把握や、体調の定期連絡で常に状況を確認できる態勢を整えるのが望ましいとしています。2人1組で互いの体調を確かめる「バディ」も挙げられている方法の一つです。ただしウェアラブル機器は、着けた人の状態を必ずしも正確につかめるわけではないため、ほかの方法と組み合わせることが望ましいとされています。
- 出発前に、行き先・作業内容・戻る時刻を伝える
- 戻る時刻を過ぎて連絡がなければ、見に行く担当を決めておく
- 暑い場所での作業は短く区切り、途中で涼しい場所に戻る
- 連絡手段(無線・携帯)が通じる場所かを事前に確かめる
- WBGTが基準値を大きく超える日は、単独作業を入れない
- 夜間や休日の保全は、冷房が止まっている前提で計画する
暑い場所にいる時間を短くするには、作業の「やり直し」を減らすことも効果的です。給脂量を数字で確かめられるガンなら、入れすぎや入れ直しを防ぎやすく、1か所あたりの作業時間も読みやすくなります。ノズルが外れてグリースが漏れる箇所には、ニップルに固定できるロックカプラが役立つでしょう。
2025年6月からの義務:保全作業も対象になり得る
WBGT28℃以上または気温31℃以上の場所で、継続して1時間以上か1日4時間を超えて行う見込みの作業は、改正労働安全衛生規則の対象です。事業者は、異変を報告させる体制、悪化を防ぐための措置と手順、その周知を整えなければなりません。冷房のない機械室での定期修理などは、当てはまるかを事前に確認しておきましょう。
7夏季休業中の定期修理・一斉給脂の進め方
生産を止められる夏季休業は、定期修理や一斉給脂の好機です。一方で、休業中は工場の空調が止まり、作業者も休み明けで暑さに慣れていないという、熱中症の条件が重なりやすい期間でもあります。
| 時期 | 押さえたいこと |
|---|---|
| 計画の段階 | 作業場所ごとにWBGTの実測方法と休憩場所を決める。重い作業は朝夕に寄せ、動力式の道具や運搬具を事前に手配する |
| 協力会社・応援者 | 短期の応援者は、暑さに慣れていない前提で作業時間を短めに組む。発注側は工期や経費の配慮も |
| 作業当日 | 朝礼で睡眠・朝食・前日の飲酒・体調を確かめる。塩と飲料水を作業場所の近くに置く |
| 休業明け | 通常勤務に戻った作業者も暑さへの慣れが落ちている。巡視の回数を増やし、作業時間を調整する |
ガイドラインによると、暑さへの慣れ(暑熱順化)は熱から離れて4日後には目立って失われ始め、3〜4週間で完全に失われるもの。順化には7日以上かけて、体の負荷を少しずつ上げていくのが一つの方法です。また、多量の汗をかく作業場では、塩と飲料水の備え付けが労働安全衛生規則で義務。水分と塩分は、作業の前後と作業中に定期的にとるよう指導することが求められています。
現場のコツ休憩場所の条件
ガイドラインは、作業場所の近くに冷房のある休憩場所か日陰などの涼しい場所を確保し、足を伸ばして横になれる広さにすることを求めています。電気や水道が使えない場所でも、日よけテントなどで日陰をつくるのが有効とのこと。
8番外:厨房設備の保守も熱中症対策になる
社員食堂や飲食店の厨房も、夏は熱中症の起きやすい職場です。国のガイドラインは業種別の対応例のなかで、調理場ではグリスフィルターを清掃して排気の機能を確保し、温度の上昇を抑えることを挙げています。油で目詰まりしたフィルターは排気を弱め、厨房に熱がこもる原因になります。定期的な清掃に加え、傷んだフィルターは交換しておきましょう。
楽天市場厨房の排気を保つ交換用フィルター
ホーコス F型グリースフィルター 両面2連式 F2540W厨房の排気フード用グリースフィルター(両面2連式)。目詰まりした古いフィルターの交換に。適合寸法は商品ページで確認を。
9倒れた人を見つけたら:保全現場での対応
冷やし方としてガイドラインは、作業着を脱がせて水をかける、濡れタオルを当てて扇風機で風を送る、ミストファンを当てる、アイススラリーや経口補水液をとらせる(自分で飲める場合)などを挙げています。単独で作業している担当者は倒れても気づかれにくいため、第6章の見守りの仕組みとあわせて、休憩所に連絡先と手順を貼り出しておきましょう。
関連記事熱中症で最初にすること倒れた人への手当ての手順をまとめた記事ですQよくある質問
Q1設備保全の担当者が一人で点検に回るのは危険ですか?
A暑い時期は注意が必要です。厚生労働省のガイドラインは、長時間の単独作業を避けてなるべく短時間にすること、単独作業が避けられない場合はウェアラブル機器や定期連絡で常に状況を確認できる態勢を整えることを求めています。行き先と戻る時刻を伝えてから出発する運用にしておきましょう。
Q2作業のきつさによって、熱中症の基準は変わるのですか?
A変わります。ガイドラインのWBGT基準値は、暑さに慣れた人で安静なら33℃、軽い手作業なら30℃、継続的な手や腕の作業なら28℃、重量物の運搬なら26℃、階段の昇り降りなどでは25℃と、作業が重いほど低い値です。作業を軽くすることは、それ自体が熱中症対策になります。
Q3夏季休業明けの点検や給脂で気をつけることは?
A暑さへの慣れ(暑熱順化)は、熱から離れて4日ほどで失われ始め、3〜4週間で完全になくなるとされています。休み明けは作業時間を短めに組み、巡視の回数を増やしてください。協力会社や短期の応援者も、慣れていない前提で扱うのが安全です。
Q4給脂作業で水分と塩分はどのくらいとればいいですか?
Aガイドラインは、0.1〜0.2%の食塩水やナトリウム40〜80mg/100mLのスポーツドリンクなどを、20〜30分ごとにカップ1〜2杯程度とることが望ましいとしています。のどの渇きを待たず、作業の前後にもとってください。持病で塩分や糖分を制限されている人は、主治医や産業医に相談を。
Q5手動のグリースガンを動力式に替えると、何が変わりますか?
Aレバーを握り続ける腕と手首の作業がなくなります。たとえば1か所5mLを100か所に入れる場合、1回1.0mLの手動ガンならレバー約500回。エア式のAMG-400Nなら、吐出の時間だけで見れば約1分半の計算です。作業を軽く短くできるため、暑い場所での負担を減らせます。
Q6熱中症の人を見つけたとき、本人が「大丈夫」と言ったら?
A本人が大丈夫と言っても、ためらわずに担当者へ連絡してください。作業から離して涼しい場所で体を冷やし、決めておいた手順で対応します。判断に迷うときは#7119などに相談し、救急搬送までの間も一人きりにしないことが大切です。
まとめ:保全作業の熱中症対策は「軽く・短く・一人にしない」
- 1軽く:動力式のガン、缶に直付けするポンプ、キャリー、集中給脂で、作業の区分を1段でも下げる
- 2短く:WBGTを現場で実測し、基準値を超えたら休憩を増やす。やり直しを減らして暑い場所にいる時間を縮める
- 3一人にしない:行き先と戻り時刻の共有、定期連絡、巡視、バディで「見つかる」状態を保つ
- 4休み明けに注意:夏季休業中の定期修理は、暑さに慣れていない前提で時間と人員を組む
この記事について
厚生労働省のガイドラインと、メーカー・輸入元・販売店の公表内容(2026年10月時点)に基づく一般的な解説です。ここで挙げた道具は作業の負担を減らすための補助で、WBGTの把握、休憩、水分と塩分の補給、見守りの代わりにはなりません。体調に不安があるときは医療機関や産業医へ。緊急時は119番へ通報してください。商品の価格・在庫・仕様は各商品ページで確認を。
参考資料
関連記事

















