熱中症対策と労働安全衛生規則改正労働基準法との違い・企業が行うべき対応

2025年6月施行の改正では、体制・手順・周知の整備が事業者に求められます。
「熱中症対策は労働基準法で義務化されたの?」と検索した方も多いかもしれません。結論からいうと、今回の義務化の中心は労働基準法ではなく、労働安全衛生法に基づく「労働安全衛生規則」の改正です。2025年6月1日に施行され、企業規模を問わず、職場の熱中症対策が義務化されました。
この記事では、労働基準法との違いから整理したうえで、改正の内容、対象となる作業、事業者に義務付けられた3つの対応、現場別の対応ポイント、用意したい書類・掲示物までを、労務担当者・安全衛生担当者・現場責任者の方が実務で使える形で解説します。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。法令の解釈・自社への適用については、厚生労働省の公式情報(パンフレット・通達 令7.5.20基発0520第6号など)や、所轄労働基準監督署・社会保険労務士などの専門家にご確認ください。
この記事の結論
- ・義務化の中心は「労働基準法」ではなく「労働安全衛生規則」の改正(第612条の2)
- ・2025年4月15日公布、2025年6月1日施行。企業規模を問わず対象
- ・対象は「WBGT28度以上または気温31度以上で、連続1時間以上または1日4時間超」の作業
- ・事業者の義務は「①報告体制の整備」「②症状悪化を防ぐ手順の作成」「③関係作業者への周知」の3つ
- ・違反時は罰則の可能性もあるが、本質は重症化・死亡事故を防ぐ実効性ある体制づくり
- ・用品は「置けば完了」ではなく、体制・手順・周知を現場で機能させる手段
熱中症対策は労働基準法の義務?まず正しく整理しよう

今回の熱中症対策の義務化は、労働基準法ではなく、労働安全衛生法に基づく「労働安全衛生規則」の改正によるものです。まずはこの関係を正しく整理しましょう。
今回の中心は「労働安全衛生規則」の改正
2025年6月1日に施行された熱中症対策の義務化は、労働安全衛生規則に第612条の2が新設されたことによるものです。労働安全衛生法第22条では「高温」による労働者の健康障害を防止するための必要な措置が事業者に義務付けられており、その具体的な内容が今回の規則改正で明記された、という位置づけです。
労働基準法と労働安全衛生法・規則の違い
名前が似ていて混同されがちですが、役割が異なります。
| 法令 | 主な役割 |
|---|---|
| 労働基準法 | 労働時間・休憩・賃金など、労働条件の最低基準を定める法律 |
| 労働安全衛生法 | 職場の安全と健康を守るための法律。熱中症対策はこちらに関連 |
| 労働安全衛生規則 | 労働安全衛生法に基づく具体的なルール。今回の第612条の2が該当 |
つまり、熱中症対策の義務は「労働安全衛生法 → 労働安全衛生規則(第612条の2)」という流れで定められています。労働基準法そのものが熱中症対策を直接義務付けたわけではない、という点を押さえておきましょう。
検索時に「労働基準法」と出てくる理由
「熱中症対策 労働基準法」と検索されることが多いのは、労働関連の法律というと労働基準法を思い浮かべる方が多いためと考えられます。実務上は、労働基準監督署が労働安全衛生法の監督も担っているため、現場では「労基(労働基準監督署)の指導」とまとめて語られることもあります。正確には、今回の根拠は労働安全衛生規則である、と理解しておくと混乱しません。
2025年6月1日施行の労働安全衛生規則改正とは
近年の猛暑と職場での熱中症労働災害の増加を背景に、熱中症の重症化を防ぐための具体的な措置が、罰則付きの義務として明確化されました。
改正の背景
厚生労働省の統計では、2024年(令和6年)の職場における熱中症の死傷者数は1,257人で、死亡者数は3年連続で年間30人を超えました。死亡・重症化の主な原因は「初期症状の放置」や「対応の遅れ」にあると指摘されており、従来の法令では早期発見・重症化防止の具体的な規定が十分ではありませんでした。これを受けて、具体的な措置が義務化されました。
公布日・施行日
この改正(労働安全衛生規則の一部を改正する省令)は、2025年4月15日に公布され、2025年6月1日に施行されました。企業規模や業種を問わず、対象となる作業がある事業者すべてに関係します。
追加された労働安全衛生規則第612条の2
今回の改正で新設された労働安全衛生規則第612条の2は、「熱中症を生ずるおそれのある作業」を行う際に、事業者が講じるべき措置を定めています。具体的には、報告体制の整備、症状悪化を防ぐための手順の作成、そして関係作業者への周知です。次の章から、対象作業と3つの対応を詳しく見ていきます。
対象となる「熱中症を生ずるおそれのある作業」とは

対象は、WBGT28度以上または気温31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間を超えて行われることが見込まれる作業です。
WBGT28度以上または気温31度以上
WBGT(暑さ指数)は、気温・湿度・輻射熱を組み合わせた指標です。WBGT28度以上、または気温31度以上の環境が、対象判断の温度基準となります。気温だけでなくWBGTでも判断されるため、湿度の高い環境では特に注意が必要です。
継続1時間以上または1日4時間超の作業
上記の温度環境で、連続して1時間以上、または1日あたり4時間を超えて行われることが見込まれる作業が対象です。短時間でも繰り返し行えば1日4時間を超えることがあるため、作業全体の見込み時間で判断します。
判断で迷いやすいケース
屋内作業や、断続的な作業は判断に迷いがちです。空調が効きにくい倉庫・工場、厨房、ボイラー室などは、屋内でも温度基準を超えることがあります。また、対象に該当しない作業であっても、作業強度や着衣の状況によっては熱中症リスクが高まるため、改正省令に準じた対応に努めることが望ましいとされています。
自社の作業が対象に該当するかの判断は、実際のWBGT測定値や作業実態によります。判断に迷う場合は、厚生労働省の公式情報や所轄労働基準監督署にご確認ください。
事業者に義務付けられた3つの対応

改正で求められるのは、「①報告体制の整備」「②症状悪化を防ぐ手順の作成」「③関係作業者への周知」の3つです。
1. 報告体制の整備
熱中症の自覚症状がある作業者、または熱中症のおそれがある作業者を見つけた人が、その旨を報告できる体制を、事業場ごとにあらかじめ定めます。連絡先や担当者を決め、「誰に・どう報告するか」を明確にしておくことが求められます。
2. 症状悪化を防ぐための手順作成
熱中症のおそれがある作業者が出た場合に、症状の悪化を防ぐための手順をあらかじめ作成します。具体的には、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の診察または処置を受けさせることなどが含まれます。あわせて、緊急連絡網や搬送先の連絡先・所在地なども整理しておきます。
3. 関係作業者への周知
整備した報告体制と手順を、関係する作業者へ周知します。書類を作って終わりではなく、朝礼・安全教育・掲示などを通じて、現場で働く全員が「異変があったら誰に報告するか」「どう対応するか」を理解している状態にすることが大切です。

周知は、朝礼・安全教育・掲示など、現場に届く方法で繰り返すことが大切です。
罰則はある?企業が注意すべきリスク
違反時には罰則の可能性もありますが、本質は重症化・死亡事故を防ぐことです。罰則を恐れるためではなく、労働者を守るための体制づくりとして取り組むことが大切です。
違反時の罰則
労働安全衛生法に基づき、規則に定められた措置を怠った場合、6か月以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金に問われる可能性があるとされています。法人に対しても罰金が科される場合があります。とはいえ、過度に罰則を恐れるのではなく、実効性のある対策を整えることが目的です。
安全配慮義務・労災リスクにも注意
罰則とは別に、企業には労働者に対する安全配慮義務があります。熱中症で従業員が亡くなる・重症化するような事態が起きれば、企業の社会的信用への影響に加え、労災や損害賠償といったリスクにもつながります。法令対応は、こうしたリスクを避けることにもつながります。
企業が今すぐ行うべき実務対応チェック
法律上のポイントと、現場で実際にやることを並べて整理しました。
| 法律上のポイント | 現場でやること |
|---|---|
| 対象作業の把握 | WBGT計を設置し、対象に該当する作業を洗い出す |
| 報告体制の整備 | 報告先・担当者・連絡先を決め、体制表を作る |
| 悪化防止手順の作成 | 離脱・冷却・受診・搬送までの対応フローを作る |
| 緊急連絡網・搬送先 | 緊急連絡先・搬送先の名称・所在地を整理し掲示 |
| 関係作業者への周知 | 朝礼・教育・掲示で周知し、記録を残す |
| 実効性の確保 | 応急セット・冷却用品・標識をすぐ使える場所に配置 |
現場別に見る、熱中症対策義務化への対応ポイント
業種によって、対象作業の発生しやすさや対応の重点が変わります。自社に近い現場を中心に確認しましょう。
建設現場
屋外・直射日光下の作業が多く、対象作業に該当しやすい業種です。WBGT計の現場設置、日除けや休憩所の確保、班ごとの報告体制と応急セットの分散配置を整えます。新規入場者への周知も忘れずに行います。
工場
炉や熱処理設備など熱源を扱うエリアは、屋内でも温度基準を超えることがあります。エリアごとのWBGT把握、スポットクーラーや送風機による局所対策、ライン作業者への報告手順の周知が重要です。
倉庫・物流
鉄板屋根の倉庫や荷役エリアは高温になりやすく、ドライバーなど一人作業も多い業種です。工場扇による送風、休憩所の整備に加えて、一人作業者の体調確認・報告ルートを明確にしておきます。
警備・イベント
長時間の立哨や屋外イベント運営は、対象作業に該当しやすく、単独配置で異変が気づかれにくいリスクもあります。定時連絡による体調確認、巡回ルートの休憩ポイント、スタッフ・来場者双方への応急対応体制を整えます。
法改正対応として用意したい書類・掲示物
1. 熱中症報告体制表
誰が・誰へ報告するかをまとめた体制表。第一次報告先・第二次報告先・緊急連絡先を記載します。
2. 熱中症対応フロー
発見から離脱・冷却・受診・搬送までの手順を並べたフロー。誰が見ても同じ動きができるようにします。
3. 現場掲示
入口や休憩所に掲示する注意喚起・連絡先。熱中症注意標識とセットにすると見える化が進みます。
4. 教育記録・周知記録
いつ・誰に・何を周知したかの記録。周知を行った証跡として残しておきます。
報告体制表や対応フローのひな形は、別記事「熱中症の報告体制・連絡体制の作り方|ひな形付き」でご紹介しています。あわせてご活用ください。
法改正対応とセットで整えたい熱中症対策用品

体制や手順を作るだけでなく、現場で「見える化する」「すぐ冷やす」「すぐ対応する」ための用品を整えておくことで、改正で求められる対応が実際に機能します。
職場の熱中症対策として人気なアイテム
熱中症注意標識(見える化)、応急セット(初動対応)など、報告体制・手順を現場で支える人気アイテムです。

職場の熱中症対策 人気アイテム①
職場の熱中症対策として人気のアイテム。初動対応や現場の備えに役立ちます。

職場の熱中症対策 人気アイテム②
現場で重宝する熱中症対策アイテム。まとめて備えておくと運用しやすくなります。

熱中症応急セット(基本タイプ)
冷却剤・経口補水パウダー・救急ガイドなどがまとまった応急セット。報告を受けてからの初動対応を支えます。

熱中症応急セット(充実タイプ)
より充実した内容の応急セット。発見から救急要請までの初動を、誰でも同じ手順で行えるよう支えます。

熱中症注意標識①
現場の見える化に役立つ熱中症注意標識。作業中の注意喚起を継続的に促せます。

熱中症注意標識②
視認性の高い熱中症注意標識。入口や休憩所への掲示に適しています。

熱中症対策 関連アイテム
現場の熱中症対策に役立つ関連アイテム。周知や運用を支えます。

熱中症注意標識(定番)
定番の熱中症注意標識。緊急連絡先の掲示とあわせて使うと、報告体制の見える化につながります。
よくある誤解と注意点
水分補給を呼びかければ法改正対応は完了
水分補給の呼びかけは大切ですが、それだけでは不十分です。改正で求められるのは、報告体制・悪化防止手順・周知という具体的な仕組みづくりです。
屋外作業だけが対象
屋内でも、WBGTや気温の基準を超える作業環境であれば対象になり得ます。空調が効きにくい倉庫・工場・厨房なども確認が必要です。
WBGT計があれば対応完了
WBGT計は対象作業の把握に役立ちますが、設置だけでは対応完了とはいえません。測定結果をもとに、報告体制・手順・周知まで整える必要があります。
正社員だけに周知すればよい
周知の対象は「関係作業者」です。パート・アルバイト・派遣・協力会社の作業員・新規入場者など、その作業に関わる人全員に周知することが大切です。
熱中症対策義務化チェックリスト

- 自社の作業が対象(WBGT28度以上/気温31度以上・連続1時間以上または1日4時間超)に該当するか確認した
- WBGT計を設置し、対象作業を洗い出した
- 報告体制(報告先・担当者・連絡先)を定め、体制表を作成した
- 症状悪化を防ぐ手順(離脱・冷却・受診・搬送)を作成した
- 緊急連絡網・搬送先の名称・所在地を整理・掲示した
- 報告体制・手順を関係作業者全員(協力会社・新規入場者含む)に周知した
- 周知・教育の記録を残している
- 熱中症注意標識・応急セット・冷却用品をすぐ使える場所に配置した
- 屋内作業エリアも対象になり得るか確認した
- 厚生労働省の公式情報・通達を確認した
よくある質問
Q. 熱中症対策は労働基準法で義務化されたのですか?
今回の義務化の中心は労働基準法ではなく、労働安全衛生法に基づく「労働安全衛生規則」の改正です。2025年4月15日に公布され、2025年6月1日に施行されました。労働安全衛生規則に第612条の2が追加され、熱中症を生ずるおそれのある作業についての対応が事業者に義務付けられています。
Q. 労働安全衛生規則改正で企業は何をしなければいけませんか?
大きく3つです。①熱中症の自覚症状がある作業者や、異変に気づいた人が報告できる体制の整備、②作業からの離脱・身体冷却・必要に応じた医師の診察などの症状悪化を防ぐ手順の作成、③これらを関係作業者へ周知すること、です。詳細は厚生労働省の公式情報をご確認ください。
Q. 対象になる作業の基準は何ですか?
WBGT28度以上または気温31度以上の環境下で、連続1時間以上、または1日あたり4時間を超えて行われることが見込まれる作業が対象とされています。屋外作業に限らず、屋内作業もこの条件に当てはまれば対象になり得ます。
Q. 罰則はありますか?
労働安全衛生法に基づき、違反した場合は6か月以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金に問われる可能性があるとされています。ただし、罰則を恐れるためというより、熱中症による重症化や死亡事故を防ぐための実効性ある体制づくりが本来の目的です。詳細は公式情報・専門家にご確認ください。
Q. 熱中症対策用品を置けば法改正対応は完了ですか?
用品を置くだけでは不十分です。今回の改正で求められるのは、報告体制の整備・症状悪化を防ぐ手順の作成・関係作業者への周知という「仕組み」です。WBGT計や標識、応急セットなどの用品は、その仕組みを現場で機能させるための手段として整えるものです。
まとめ
熱中症対策の義務化は、労働基準法ではなく、労働安全衛生法に基づく労働安全衛生規則の改正(第612条の2)によるものです。2025年6月1日に施行され、企業規模を問わず、対象作業がある事業者に「報告体制の整備」「症状悪化を防ぐ手順の作成」「関係作業者への周知」の3つが求められています。
大切なのは、罰則を恐れることではなく、熱中症による重症化・死亡事故を防ぐ実効性のある体制をつくることです。体制・手順・周知という「仕組み」を整えたうえで、WBGT計・標識・応急セットなどの用品を「すぐ使える状態」にしておくことで、いざというときの初動が早くなります。法令の詳細は、厚生労働省の公式情報や専門家にご確認ください。
法改正対応を支える熱中症対策用品をチェック
2025年6月1日施行の労働安全衛生規則改正では、報告体制の整備、症状悪化を防ぐ手順の作成、関係作業者への周知が重要になります。体制や手順を作るだけでなく、現場で「見える化する」「測定する」「すぐ冷やす」「すぐ対応する」ための用品を整えておくことも大切です。グリーンセレクトでは、熱中症注意標識、応急セット、冷却用品など、職場の熱中症対策に役立つアイテムを取り揃えています。
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