8月の平日、昼過ぎ。大きな揺れのあと電車が止まり、オフィスの照明も空調も落ちた——。国のガイドラインに沿えば、従業員はそのまま職場にとどまり、原則として3日間は帰宅を控えることになります。問題は、その3日間を冷房のない夏のオフィスで過ごす可能性があることです。
帰宅困難者対策は、これまで水・食料・毛布といった「量」の話が中心でした。この記事では、夏の待機で起こる熱中症にしぼって、時間帯ごとのリスク、送風と充電の電源、トイレ、救護の段取りまでを具体的に整理します。
こんな方に向けて書いています
- ・会社の防災・BCP担当で、夏に被災した場合の待機計画を考えたい
- ・備蓄は水と食料までそろえたが、停電中の暑さ対策が手つかず
- ・来客や近隣の帰宅困難者を受け入れる可能性がある施設の管理者
この記事の結論
- 1夏の職場待機は「空調停止」「人の密集」「トイレを気にした水分の控え」「夜の暑さ」が重なり、熱中症の条件がそろいやすい。
- 2危ないのは発災直後だけではない。疲れがたまる2日目・3日目と、炎天下を歩く帰宅開始時こそ注意が要る。
- 3送風の電源は「扇風機を何台、何時間」で決める。扇風機2台を1日10時間回してスマホも充電するなら、2kWh級でおよそ2日分。
- 4トイレの数と目隠しを先に整えると、水分を控える人が減る。携帯トイレは洋式便器が前提なので、組立便器も用意する。
- 5社内に救護スペースと担架、声かけの当番を決めておく。それでも体調を崩す人が出そうなら、冷房のある施設への移動を検討する。
1夏の職場待機で熱中症の条件がそろう4つの理由
2026年1月に改定された国の帰宅困難者対策のガイドラインは、酷暑や極寒のように外の環境が極めて厳しい場合でも、帰宅困難者の安全確保を最優先にするよう示しました。地震の揺れの被害がなくても、交通が止まって大勢が足止めされる場面を想定した内容です。夏の待機では、次の4つが同時に起こり得ます。
1空調が止まり、復電後も止まったまま
停電でエアコンが止まるうえ、家庭用では電気が戻っても自動で再起動しない機種が多いと報じられています。誰も気づかないまま暑い部屋が続くことも。
2人が集まり、熱がこもる
従業員に加えて来客や近隣の帰宅困難者を受け入れると、1か所に人が集中。国のガイドラインは一時滞在施設の受け入れを約3.3㎡あたり2人と見込んでおり、人の体温だけでも室内は暑くなります。
3トイレを気にして飲まない
トイレが使いにくいと、排せつを我慢して水分や食事を控える人が出てくるもの。国のトイレのガイドラインも、この「控え」が健康を損なう原因になると指摘しています。
4夜も暑く、疲れがたまる
国は、熱中症が室内でも夜でも起こる点に注意を促しています。床で眠る日が続けば睡眠不足と疲労が重なり、2日目、3日目と進むほど、体は暑さに弱くなるでしょう。
国は2026年4月の周知文でも、停電で冷房器具が使えない状況では一層の注意が必要だと呼びかけています。窓を大きく開けられないビルでは、風を通す手段が限られる点も見落とせません。
2待機3日間・時間帯別の暑さリスク早見表
待機中の危険は一定ではありません。発災直後は「動くこと」、夜は「眠れないこと」、2日目以降は「たまった疲れ」が熱中症の引き金になります。時間帯ごとに何が起きやすいかを整理しておくと、交代や声かけのタイミングを決めやすくなります。
| 時間帯 | 起きやすいこと | 対策 | 役立つ備え |
|---|---|---|---|
| 発災〜6時間 | 階段での上り下りや安全点検、けが人の対応で、汗をかく動きが続く | 点検担当を交代制にし、作業前後に水分をとる。救護スペースの場所を早めに決める | |
| 1日目の夜 | 風が止まり室温が下がりにくい。暗さでトイレに行くのをためらう | 扇風機を寝る場所に回し、トイレまでの動線に明かりを置く | |
| 2日目の日中 | 日差しで窓際の室温が上がる。疲れと寝不足で体調を崩す人が出始める | 日射の入る面のブラインドを閉め、人を建物の日陰側へ寄せる。時間を決めて声かけ | |
| 3日目 | 食事の偏りと汗で塩分が不足しやすい。我慢が続き限界に近づく | 塩分を含む飲み物を配る。体調の悪い人は冷房のある施設への移動も検討 | |
| 4日目以降(帰宅開始) | 炎天下を長い距離歩いて帰ることになる | 気温の高い時間帯の出発を避け、帰宅支援ステーションで水とトイレを確保しながら歩く |
4日目以降の帰宅開始は国のガイドラインの想定によるもの。被害の状況によって前後します。
現場のコツ帰宅開始の日も熱中症に注意
国の帰宅行動指針は、移動中に天候や気温が変わることで危険が伴う場合に留意して、帰宅を始める時機を判断するよう求めています。暑い日は涼しい時間帯に出発し、コンビニエンスストアなどの災害時帰宅支援ステーションで水道水やトイレを借りながら歩く計画にしておきましょう。
3夏の待機に「上乗せ」したい備え
職場の備蓄の基本は、全従業員の3日分の水・主食・毛布・トイレです。ただ、この基本は季節を問わない最低ラインであり、夏の待機を乗り切るには暑さ向けの上乗せが要ります。何を足すかを、目的ごとに整理しました。
| 目的 | 上乗せしたいもの | 関連する商品 |
|---|---|---|
| 汗で失う塩分を補う | 塩分を含む飲み物や経口補水液、塩分を含む食品 | |
| 風を送る | 扇風機・USB扇風機と、それを動かすポータブル電源 | |
| 汗を拭く・着替える | 体拭きシートなどの衛生用品、着替えの目隠し | |
| 暑さの情報を得る | 電池がなくても使えるラジオ | |
| 倒れた人を冷やす | 救護スペースの仕切り、搬送用の担架 |
人数単位の防災セットは、待機の初日に配っておくと各自が自分のペースで使えます。机に置けるA4サイズのセットは、発災直後に手を伸ばせる位置にあるのが強み。中身に何が入っているかは商品ごとに違うため、塩分補給や体を拭く用品が含まれるかを確かめたうえで、足りない分を上乗せしましょう。
4送風と充電の電源計画:容量ごとに何時間もつか
停電中のオフィスで頼れる冷却手段は、ほぼ「風」だけです。国のリーフレットも、エアコンが使えないときは日光を遮って風通しをよくし、濡れたタオルを肌に当ててあおぐよう勧めています。必要な電源の大きさは、扇風機の台数と回す時間から逆算します。
もつ時間の目安
時間(h)≒ 容量(Wh)× 0.8 ÷ 消費電力(W)
係数0.8、USB扇風機5W、卓上扇風機30W、スマホ1台15Whはいずれも編集部の仮定値です。実際は機器の表示で確認してください。
| 容量 | USB扇風機(5W) | 卓上扇風機(30W) | 扇風機2台×1日10時間+スマホ10台/日 | 向く範囲 |
|---|---|---|---|---|
| 約150Wh(例:200Wポータブル電源 153.6Wh) | 約24時間 | 約4時間 | 約0.2日分 | 受付・個人用 |
| 約560Wh(例:INFINITY 600) | 約90時間 | 約15時間 | 約0.6日分 | 少人数の部屋 |
| 1kWh級 | 約160時間 | 約27時間 | 約1.1日分 | 小さなフロア |
| 2kWh級 | 約320時間 | 約53時間 | 約2.1日分 | フロアの送風拠点 |
フロア運用の列は、1日あたり扇風機で600Wh、スマホ充電で150Wh、合わせて750Whを使う想定です。3日間まかなうなら、2kWh級に1kWh級を足すくらいが目安。1台に頼るより、フロアごとに分けて置いたほうが、運ぶ手間も故障時の影響も小さくなります。
GC-select停電の瞬間に給電を切り替える構成に
TogoPower MASTER2200 ポータブル電源コンセント→本体→扇風機とつないでおくと、停電の瞬間に給電が切り替わる仕組み(M-UPS)をシリーズでうたう(販売店の説明による)。容量は各商品ページで要確認。
容量を確認できたのはINFINITY 600(560Wh、量販店掲載値)と200Wポータブル電源(153.6Wh)です。そのほかの機種は商品ページで容量を確かめ、表の該当する行に当てはめてください。
復電したら空調を「見て回る」
停電で止まったエアコンは、電気が戻っても止まったままの場合があります。家庭用では自動で再起動しない機種が多いと報じられており、業務用も設定しだい。復電のたびに、各フロアや会議室の空調が実際に動いているかを確認する担当を決めておきましょう。
また、燃料式の発電機は屋内や車内で使わないでください。一酸化炭素中毒の危険があります。
5水分を控えさせないトイレ計画
暑い中での待機でいちばん避けたいのが、「トイレに行きたくないから飲まない」という行動です。国の避難所のトイレのガイドラインは、トイレの使用をためらって排せつを我慢し、水分や食事を控えることが健康を損なう原因になると指摘しています。日本気象協会も、災害時はトイレに行きづらさから水分を控えがちで、脱水が熱中症の危険を高めると注意を呼びかけました。
つまり職場のトイレ対策は、衛生の問題であると同時に水を飲んでもらうための熱中症対策でもあります。押さえたいのは「数」「場所」「目隠し」の3点です。
数
足りないと分かれば、人は飲む量を減らすもの。人数に対して余裕のある回数を用意し、在庫があることを最初に伝えます。
場所
トイレが遠く暗いと、夜中に行くのをためらいがち。フロアごとに分散し、動線に明かりを置きましょう。
目隠し
女性や来客が安心して使える個室がないと、我慢が増える原因に。テントやパーテーションで仕切りをつくります。
携帯トイレは「洋式便器」が前提
袋と凝固剤の携帯トイレは、洋式便器にかぶせて使うのが前提で、和式便器では使いにくいとされています。古いビルで和式が残っている、便器が破損したといった場合に備え、便器と便座だけの組立式や折り畳み式も用意しておくと安心です。
GC-select6熱中症の人が出たら:社内に「救護スペース」をつくる
大地震の直後、行政は人命救助や消火を最優先にします。救急車がすぐに来ない前提で、具合の悪い人を休ませ、体を冷やせる場所を社内にあらかじめ決めておきましょう。待機が始まった時点で開設し、場所を全員に知らせるのが基本です。
| 項目 | 決めておくこと | 使う備え |
|---|---|---|
| 場所 | 建物の日陰側で風が通り、トイレに近い部屋。窓際の西日が当たる場所は避ける | |
| 仕切り | 横になる人や着替える人の目隠し。男女で分けられる配置に | |
| 搬送 | エレベーター停止時に、階段で運ぶ人数と手順 | |
| 冷却 | 扇風機と電源、濡らすタオル、冷やすための水 | |
| 記録・連絡 | 症状が出た時刻と様子のメモ、通報する担当 | — |
7声かけと見回りの仕組み:来客や要配慮者も含めて
国のリーフレットは、災害時はお互いに声をかけ合い、高齢者・こども・障害のある人には特に注意するよう求めています。2026年1月に改定された国のガイドラインも、一時滞在の受け入れでは女性専用や要配慮者向けのスペースを設けるよう示す内容です。待機が長くなるほど「大丈夫です」と我慢する人が増えるため、仕組みで見回ることが大切になります。
当番を決める
フロアごとに見回りの当番を2人1組で決め、交代の時刻を紙に書いて貼り出す。
時刻で声をかける
「何時に一斉に水を飲む」と時刻を決めて呼びかける。停電で放送が使えないときはメガホンで。
名簿で追う
持病のある人、妊娠中の人、来客など、気にかけるべき人を名簿にして、見回りのたびに顔を見る。
夜も回る
寝苦しさで眠れない人、トイレに行けていない人がいないかを、夜間も時間を決めて確認する。
待機中でも、建物の点検や片付けなど災害対応の業務を従業員にさせる場合は「仕事」として扱われます。2025年6月施行の職場の熱中症対策の義務(報告体制・対応手順・周知)も意識して、作業する人を交代制にしてください。
8待機を続けるか、移るか:暑さで判断が変わる場面
地震直後の原則は「むやみに移動を開始しない」です。一方で国は、停電が長引きそうな場合、とりわけ高齢者やこども、障害のある人は冷房の使える避難所へ移ることも考えるよう求めています。2つの方針は矛盾しているように見えて、判断の材料が違うだけ。安全を確かめたうえで、暑さを理由に動くべき場面はあります。
| 判断の材料 | 待機を続ける | 移動を検討する |
|---|---|---|
| 建物・周辺 | 点検で安全が確認でき、周辺に火災などがない | 建物や周辺が安全でない(国のガイドラインでも一時滞在施設等への誘導が示されている) |
| 室内の暑さ | 送風と日よけで、体調を崩す人が出ていない | 扇風機の電源が尽きた、体調不良が続けて出ている |
| 人 | 見回りで全員の様子を確認できている | 高齢者や持病のある人など、暑さに弱い人がいる |
| 移動先の情報 | 移動先や道中の安全が分からない | 行政の情報で、冷房の動く施設の開設や安全な経路を確認できた |
移動するときは、ばらばらに出るのではなく、行き先と人数を決めてまとまって動きます。日中の暑い時間を避け、飲み物を持たせてください。熱中症特別警戒アラートが出た日、国は管理者に対し、対策が徹底できなければ外出などの中止や延期を判断するよう求めています。移動の時刻を決める際の目安にもなります。
関連記事避難所の熱中症対策移動先の避難所で気をつけたいことをまとめています9夏の前にやっておく準備チェックリスト
夏の待機対策は、発災してから考えても間に合いません。BCPや防災計画を見直すタイミングで、次の項目を一度確認しておきましょう。
- フロアごとに送風用の電源と扇風機の台数を決め、満充電を保つ担当を置いた
- 停電の瞬間に給電が切り替わるよう、重要な扇風機は電源を経由してつないだ
- 日差しの入る窓と、閉めるブラインドの位置を確認した
- 塩分を含む飲み物や経口補水液を、水とは別に備蓄した
- 携帯トイレの回数と置き場所、組立便器、目隠しテントを用意した
- 救護スペースの部屋、担架の保管場所、搬送の手順を決めた
- 見回りと声かけの当番表、気にかけるべき人の名簿の様式を作った
- 復電後に空調の再起動を確認する担当を決めた
- 冷房の動く避難先やクーリングシェルターの場所を調べた
- 訓練の日に扇風機を電源で回し、実際に何時間もつかを試した
Qよくある質問
Q1真夏に大地震が起きたら、それでも会社に3日間とどまるべきですか?
A建物と周辺の安全が確認できれば、むやみに移動しないのが国の基本原則で、帰宅は原則として4日目以降が想定されています。ただし2026年1月改定の国のガイドラインは、酷暑のような厳しい環境でも帰宅困難者の安全確保を最優先とする考え方を示しました。暑さで体調を崩す人が出そうなら、行政の情報を確かめたうえで冷房の動く施設への移動も検討してください。
Q2停電したオフィスで、まず何をすれば暑さを和らげられますか?
A日差しの入る窓のブラインドを下ろし、開けられる窓や扉で風の通り道をつくります。そのうえでポータブル電源で扇風機を回し、濡らしたタオルを首や脇に当てて体を冷やしましょう。のどが渇く前から、水分と塩分をこまめにとることも欠かせません。
Q3停電が復旧すれば、エアコンは自動で動き出しますか?
A家庭用エアコンは、停電で止まると自動では再起動しない機種が多いと報じられています。業務用は機種や設定によって異なるため、復電したら各フロアの空調が実際に動いているかを見て回ってください。
Q4トイレが心配で水を飲まない同僚がいたら、どうすればいいですか?
Aトイレの使用をためらって水分や食事を控えることは、国のトイレのガイドラインでも健康被害の原因として挙げられています。携帯トイレの数と置き場所、目隠しのテントを示して「遠慮せず使える」状態をつくり、そのうえで水分補給を声かけしてください。
Q5ポータブル電源で、扇風機は何時間くらい回せますか?
A目安は「容量×0.8÷消費電力」です。30Wの扇風機なら、容量560Whの機種で約15時間。扇風機2台を1日10時間回し、さらにスマートフォン10台を充電する運用だと、2kWh級でおよそ2日分になります。
Q6待機中に熱中症の人が出ても救急車がすぐ来ないときは?
A涼しい場所に移して服をゆるめ、首・脇の下・足のつけ根を冷やします。呼びかけへの反応がおかしい場合は無理に水を飲ませず、119番への通報を続けてください。判断に迷うときは、つながれば救急安心センター(#7119)も相談先になります。
まとめ:夏の職場待機を乗り切る4つの柱
- 1風:扇風機の台数と回す時間から電源の容量を決め、フロアごとに分けて置く
- 2水とトイレ:塩分を含む飲み物を上乗せし、トイレの数・場所・目隠しで「飲める」環境をつくる
- 3救護:救護スペース・担架・声かけの当番を決め、熱中症のサインを全員で共有する
- 4判断:安全を確かめたうえで、暑さに弱い人から冷房のある場所への移動を検討する
目的別に探す:GC-selectの一覧ページ
この記事について
公的機関の資料と報道、販売店の掲載情報(2026年10月時点)をもとにまとめた一般的な情報です。グッズはあくまで予防の補助で、休憩・水分と塩分の補給・涼しい場所への退避の代わりにはなりません。体調面で心配があれば医療機関に相談し、緊急時は119番へ。商品の価格・在庫・仕様は各商品ページで確かめてください。
参考資料
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